1957年10月4日、ある出来事が、世界の二大グループに属する人々を真っ向から対立させ、激しい競争に落とし込んだ。この二大グループとは、二大国のことだ。国家の統治や哲学的な違いから、すでに対立関係にあったが、この事件の発生によって、両国は新たな全面競争の時代を迎えた。

今から50年以上も前のその日、当時のソビエト社会主義共和国連邦とアメリカ合衆国の、野心的な競争が始まった。ソビエトが史上初の人工衛星、スプートニクの大気圏外への打ち上げに成功したことにアメリカ政府が反応した。そして、両国間の競争、つまり、「宇宙開発競争」の幕開けとなった。

ソ連が打ち上げた83.6kgの人工衛星がアメリカ上空を通過した時、アメリカ国民は、ビーっという不思議な飛行音を短波ラジオで聞いた。そして、ソビエトに対する強烈な競争心をかき立てられた。アメリカ国民は、ソ連が技術的に勝っており、 上空からスパイ活動を行っているのかもしれないと恐れた。ソ連の発射する武器が、とうとうアメリカ大陸にまで届くようになったらしい、と考えたようだ。

ソビエトに脅威を感じるアメリカが、技術で遅れを取っていると気付いた時点で、 ソビエトに追いつけ追い越せの宇宙開発競争が始まった。スプートニクの事件は、競争のいろいろな面を浮き彫りにしている。第一に、競争が成り立つためには、通常、敵対する二者が必要だという点が挙げられる。

スプートニク事件以前のアメリカでは、(NASAが設置される以前の話だが)宇宙開発計画に関わる政府の官僚たちの中にソビエトの人工衛星構築を真面目に受け止める者はいなかった。当時のアメリカで競争を語るとき、ソビエトは過小評価されていた。アメリカは、よもや先を越されることはないだろうとのんびり構えていたのだ。しかし、ソ連が宇宙計画の成功を発表するやいなや、言い換えれば、米国民が共産主義国の脅威を感じるやいなや、アメリカは素早く行動に出た。スプートニクの打ち上げで、以前にはなかった競争状態が発生した。

ほとんどの競争では、最終的に手にするものを争って二者が闘う。目指すものは、スポーツならば優勝トロフィー、ビジネスならば顧客の獲得や金もうけ、政治ならば政権、宇宙開発競争ならば国際戦略上での優位な立場だ。

しかし、競争には、必ずしも対立する相手が存在するというわけではない。時には、敵の見えない孤独な競争もある。例えば、あなたが営業マンなら、これまでの自分の販売成績と競っている。もし、走るのが趣味だったら、自己ベストを上げるために、ストップウォッチと競争するだろう。つまり、あなたは、対戦相手無しで競争している。それは、宇宙を舞台にしたけんか騒ぎに、アメリカが飛びこむ以前のソビエトの姿に似ている。

二つ目の特徴は、競争状態は、焦点を明らかにする、つまり「目標」を生みだすことだ。そして、目標達成のためには、こんなにも必要だろうかと思われるほど努力する。スプートニク事件以前のアメリカには、宇宙ロケットの開発に従事する人たちはいたものの、効果的な運用に対しては、軍部関係者の間にさまざまな意見の対立があった。しかし、ソビエトの打ち上げに驚いたアメリカは、巻き返しを狙うため、中央機関を設けて活動し、目的達成に注力し始めた。その目標とは、もちろん宇宙開発技術でソビエトをしのぐことだ。そうして、米航空宇宙局(NASA)は、アメリカ全土の知力を中央に集中させた。その後、ジョン・F・ケネディ大統領によって、あらゆる小規模の目標が一つの偉大なる目標に結集されたのだ。1961年5月25日、ケネディ大統領は、「我が国は、今後10年以内に人類を月面に着陸させ、安全に地球へ帰還させるという目標達成のために全力を傾けて取り組むべきだと考える」と大胆に宣言した。

さて、第三に、競争には「改善への動機」を生みだすという特質がある。この時点でアメリカは、現状に甘んじてはいられなくなっていた。NASAの設立だけでなく、一般庶民のレベルに関してもそうだ。アメリカ全土の学校に対し、数学や科学の教育を強化するように指導が出された。なぜなら、ソ連のスプートニク打ち上げ成功は、 教育レベルにおいてもアメリカがソビエトに遅れを取っている証拠ではないか、と危惧したからだ。

この競争の結果は、誰にも予想できないものだった。実際、国と国とが競争関係に陥ったらどんな結末を迎えることになるか、思い描くことも不可能だった。一般には、人を乗せたアメリカ製宇宙船の月面着陸が、米ソ宇宙開発競争におけるアメリカの成功を示すものだと考えられている。けれども、実際の成果は、それ以上のものだった。

最終的に、この競争は逆の結果、つまり協力関係を誕生させた。1975年にアメリカとロシアの宇宙飛行士らが、大気圏外空間で握手するに至ったのだ。宇宙開発競争は、歳月を経てさまざまな開発や発見をもたらし、月面に立つこと自体の価値よりもっと大きな影響を人類に与えることとなった。

偉大なる競争は、ふとしたきっかけから、次のようなものにつながった。インターネットの前身ともいえるARPANET(アーパネット)、超音波エコー、GPSシステム、そしてインスタントコーヒーなどがある。このように競争は多くの場合、思いがけない結果を生みだす。

だから競争とは、目標のため、または限りある資源を手にするための闘いであり、多大な努力と自己改善が要求される。

競争自体は、良いものでも悪いものでもない。目標を達成しようとする動機や方法次第で、大きな益をもたらすこともあれば、大きな害につながることもある。

競争には結果がある。思い通りの結果もあれば、予想外の結果もある。だから、慎重に参加すべきだ。Dave Branon

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