コヘレトの言葉 4:1-6:12
1わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た。
見よ、虐げられる人の涙を。
彼らを慰める者はない。
見よ、虐げる者の手にある力を。
彼らを慰める者はない。
2既に死んだ人を、幸いだと言おう。更に生きて行かなければならない人よりは幸いだ。 3いや、その両者よりも幸福なのは、生まれて来なかった者だ。太陽の下に起こる悪い業を見ていないのだから。
4人間が才知を尽くして労苦するのは、仲間に対して競争心を燃やしているからだということも分かった。これまた空しく、風を追うようなことだ。
5愚か者は手をつかねてその身を食いつぶす。
6片手を満たして、憩いを得るのは
両手を満たして、なお労苦するよりも良い。
それは風を追うようなことだ。
7わたしは改めて
太陽の下に空しいことがあるのを見た。
8ひとりの男があった。友も息子も兄弟もない。
際限もなく労苦し、彼の目は富に飽くことがない。
「自分の魂に快いものを欠いてまで
誰のために労苦するのか」と思いもしない。
これまた空しく、不幸なことだ。
9ひとりよりもふたりが良い。
共に労苦すれば、その報いは良い。
10倒れれば、ひとりがその友を助け起こす。
倒れても起こしてくれる友のない人は不幸だ。
11更に、ふたりで寝れば暖かいが
ひとりでどうして暖まれようか。
12ひとりが攻められれば、ふたりでこれに対する。
三つよりの糸は切れにくい。
13貧しくても利口な少年の方が
老いて愚かになり
忠告を入れなくなった王よりも良い。
14捕われの身分に生まれても王となる者があり
王家に生まれながら、卑しくなる者がある。
15太陽の下、命あるもの皆が
代わって立ったこの少年に味方するのを
わたしは見た。
16民は限りなく続く。
先立つ代にも、また後に来る代にも
この少年について喜び祝う者はない。
これまた空しく、風を追うようなことだ。
17神殿に通う足を慎むがよい。
悪いことをしても自覚しないような愚か者は
供え物をするよりも、聞き従う方がよい。
1焦って口を開き、心せいて
神の前に言葉を出そうとするな。
神は天にいまし、あなたは地上にいる。
言葉数を少なくせよ。
2夢を見るのは悩みごとが多いから。
愚者の声と知れるのは口数が多いから。
3神に願をかけたら
誓いを果たすのを遅らせてはならない。
愚か者は神に喜ばれない。
願をかけたら、誓いを果たせ。
4願をかけておきながら誓いを果たさないなら
願をかけないほうがよい。
5口が身を滅ぼすことにならないように。
使者に「あれは間違いでした」などと言うな。
神はその声を聞いて怒り
あなたの手の業を滅ぼされるであろう。
6夢や空想が多いと饒舌になる。
神を畏れ敬え。
7貧しい人が虐げられていることや、不正な裁き、正義の欠如などがこの国にあるのを見ても、驚くな。なぜなら
身分の高い者が、身分の高い者をかばい
更に身分の高い者が両者をかばうのだから。
8何にもまして国にとって益となるのは
王が耕地を大切にすること。
9銀を愛する者は銀に飽くことなく
富を愛する者は収益に満足しない。
これまた空しいことだ。
10財産が増せば、それを食らう者も増す。
持ち主は眺めているばかりで、何の得もない。
11働く者の眠りは快い
満腹していても、飢えていても。
金持ちは食べ飽きていて眠れない。
12太陽の下に、大きな不幸があるのを見た。
富の管理が悪くて持ち主が損をしている。
13下手に使ってその富を失い
息子が生まれても、彼の手には何もない。
14人は、裸で母の胎を出たように、裸で帰る。
来た時の姿で、行くのだ。
労苦の結果を何ひとつ持って行くわけではない。
15これまた、大いに不幸なことだ。
来た時と同じように、行かざるをえない。
風を追って労苦して、何になろうか。
16その一生の間、食べることさえ闇の中。
悩み、患い、怒りは尽きない。
17見よ、わたしの見たことはこうだ。神に与えられた短い人生の日々に、飲み食いし、太陽の下で労苦した結果のすべてに満足することこそ、幸福で良いことだ。それが人の受けるべき分だ。 18神から富や財宝をいただいた人は皆、それを享受し、自らの分をわきまえ、その労苦の結果を楽しむように定められている。これは神の賜物なのだ。 19彼はその人生の日々をあまり思い返すこともない。神がその心に喜びを与えられるのだから。
1太陽の下に、次のような不幸があって、人間を大きく支配しているのをわたしは見た。 2ある人に神は富、財宝、名誉を与え、この人の望むところは何ひとつ欠けていなかった。しかし神は、彼がそれを自ら享受することを許されなかったので、他人がそれを得ることになった。これまた空しく、大いに不幸なことだ。
3人が百人の子を持ち、長寿を全うしたとする。
しかし、長生きしながら、財産に満足もせず
死んで葬儀もしてもらえなかったなら
流産の子の方が好運だとわたしは言おう。
4その子は空しく生まれ、闇の中に去り
その名は闇に隠される。
5太陽の光を見ることも知ることもない。
しかし、その子の方が安らかだ。
6たとえ、千年の長寿を二度繰り返したとしても、幸福でなかったなら、何になろう。すべてのものは同じひとつの所に行くのだから。
7人の労苦はすべて口のためだが
それでも食欲は満たされない。
8賢者は愚者にまさる益を得ようか。
人生の歩き方を知っていることが
貧しい人に何かの益となろうか。
9欲望が行きすぎるよりも
目の前に見えているものが良い。
これまた空しく、風を追うようなことだ。
10これまでに存在したものは
すべて、名前を与えられている。
人間とは何ものなのかも知られている。
自分より強いものを訴えることはできない。
11言葉が多ければ空しさも増すものだ。
人間にとって、それが何になろう。
12短く空しい人生の日々を、影のように過ごす人間にとって、幸福とは何かを誰が知ろう。人間、その一生の後はどうなるのかを教えてくれるものは、太陽の下にはいない。