民数記 20:1-22:41
メリバの水
1イスラエルの人々、その共同体全体は、第一の月にツィンの荒れ野に入った。そして、民はカデシュに滞在した。ミリアムはそこで死に、その地に埋葬された。
2さて、そこには共同体に飲ませる水がなかったので、彼らは徒党を組んで、モーセとアロンに逆らった。 3民はモーセに抗弁して言った。「同胞が主の御前で死んだとき、我々も一緒に死に絶えていたらよかったのだ。 4なぜ、こんな荒れ野に主の会衆を引き入れたのです。我々と家畜をここで死なせるためですか。 5なぜ、我々をエジプトから導き上らせて、こんなひどい所に引き入れたのです。ここには種を蒔く土地も、いちじくも、ぶどうも、ざくろも、飲み水さえもないではありませんか。」
6モーセとアロンが会衆から離れて臨在の幕屋の入り口に行き、そこにひれ伏すと、主の栄光が彼らに向かって現れた。 7主はモーセに仰せになった。 8「あなたは杖を取り、兄弟アロンと共に共同体を集め、彼らの目の前で岩に向かって、水を出せと命じなさい。あなたはその岩から彼らのために水を出し、共同体と家畜に水を飲ませるがよい。」 9モーセは、命じられたとおり、主の御前から杖を取った。 10そして、モーセとアロンは会衆を岩の前に集めて言った。「反逆する者らよ、聞け。この岩からあなたたちのために水を出さねばならないのか。」 11モーセが手を上げ、その杖で岩を二度打つと、水がほとばしり出たので、共同体も家畜も飲んだ。 12主はモーセとアロンに向かって言われた。「あなたたちはわたしを信じることをせず、イスラエルの人々の前に、わたしの聖なることを示さなかった。それゆえ、あなたたちはこの会衆を、わたしが彼らに与える土地に導き入れることはできない。」 13これがメリバ(争い)の水であって、イスラエルの人々が主と争った所であり、主が御自分の聖なることを示された所である。
エドム王との交渉
14モーセはカデシュからエドム王に使者を遣わした。「あなたの兄弟であるイスラエルはこう申します。あなたは、わたしたちの上にふりかかった患難をすべてご存じのことでしょう。 15わたしたちの先祖はエジプトに下り、長年、エジプトに住んでおりました。エジプト人がわたしたちの先祖もわたしたちも苦しめたので、 16主に助けを求めて叫びますと、主はわたしたちの声を聞いて御使いを遣わし、エジプトから導き出してくださいました。今、わたしたちは、あなたの国境に近いカデシュの町におります。 17どうか、あなたの領土を通過させてください。畑やぶどう畑の中を通ったり井戸の水を飲んだりしません。あなたの領土を通過するまで、右にも左にも曲がることなく、『王の道』を通って行きます。」 18エドム人は彼に答えた。「わたしの領内を通ってはならない。もし、通るようなことがあれば、剣をとってお前を迎え撃つ。」 19イスラエルの人々は言った。「わたしたちは広い道を通りますし、その際、わたしや家畜があなたの水を飲むことがあれば、その代価は支払います。徒歩で通過するだけです。取るに足らぬことです。」 20しかしエドム人は、「通過してはならない」と言い、強力な軍勢を率いて迎え撃とうとした。 21エドム人はこのように、自分の領土をイスラエルが通過することを許さず、イスラエルは迂回しなければならなかった。
アロンの死
22イスラエルの人々、その共同体全体はカデシュを旅立って、ホル山に着いた。 23ホル山はエドム領との国境にあり、ここで、主はモーセとアロンに言われた。 24「アロンは先祖の列に加えられる。わたしがイスラエルの人々に与える土地に、彼は入ることができない。あなたたちがメリバの水のことでわたしの命令に逆らったからだ。 25アロンとその子エルアザルを連れてホル山に登り、 26アロンの衣を脱がせ、その子エルアザルに着せなさい。アロンはそこで死に、先祖の列に加えられる。」 27モーセは主が命じられたとおりにした。彼らは、共同体全体の見守る中をホル山に登った。 28モーセはアロンの衣を脱がせ、その子エルアザルに着せた。アロンはその山の上で死んだ。モーセとエルアザルが山を下ると、 29共同体全体はアロンが息を引き取ったのを悟り、イスラエルの全家は三十日の間、アロンを悼んで泣いた。
カナン人に対する勝利
1ネゲブに住むカナン人、アラドの王は、イスラエルがアタリムの道を進んで来ると聞き、イスラエルと戦い、捕虜を引いて行った。 2イスラエルは主に誓いを立てて、「この民をわたしの手に渡してくださるならば、必ず彼らの町を絶滅させます」と言った。 3主はイスラエルの言葉を聞き入れ、カナン人を渡された。イスラエルは彼らとその町々を絶滅させ、そこの名をホルマ(絶滅)と呼んだ。
青銅の蛇
4彼らはホル山を旅立ち、エドムの領土を迂回し、葦の海の道を通って行った。しかし、民は途中で耐えきれなくなって、 5神とモーセに逆らって言った。「なぜ、我々をエジプトから導き上ったのですか。荒れ野で死なせるためですか。パンも水もなく、こんな粗末な食物では、気力もうせてしまいます。」 6主は炎の蛇を民に向かって送られた。蛇は民をかみ、イスラエルの民の中から多くの死者が出た。 7民はモーセのもとに来て言った。「わたしたちは主とあなたを非難して、罪を犯しました。主に祈って、わたしたちから蛇を取り除いてください。」モーセは民のために主に祈った。 8主はモーセに言われた。「あなたは炎の蛇を造り、旗竿の先に掲げよ。蛇にかまれた者がそれを見上げれば、命を得る。」 9モーセは青銅で一つの蛇を造り、旗竿の先に掲げた。蛇が人をかんでも、その人が青銅の蛇を仰ぐと、命を得た。
モアブの谷までの旅
10イスラエルの人々は旅を続け、オボトに宿営し、 11オボトを旅立つと、モアブの東側の荒れ野にあるイイエ・アバリムに宿営した。 12そこを旅立ってゼレドの谷に宿営し、 13更に旅を続けて、アルノン川の向こう岸に宿営した。この川はアモリ人の国境から広がる荒れ野を流れていた。アルノン川はモアブとアモリ人との国の間にあって、モアブの国境をなしている。 14それで、『主の戦いの書』には次のように書かれている。「スファのワヘブとアルノン川の支流。 15それらの支流はアルの定住地に流れ下り、モアブの国境に及ぶ。」
16彼らはそこからベエル(井戸)に行った。これは、主がモーセに「民を集めよ、彼らに水を与えよう」と言われた井戸である。 17そのことがあったとき、イスラエルはこの歌をうたった。
井戸よ、湧き上がれ
井戸に向かって歌え。
18笏と杖とをもって
司たちが井戸を掘り
民の高貴な人がそれを深く掘った。
彼らは荒れ野からマタナ、 19マタナからナハリエル、ナハリエルからバモト、 20バモトからモアブの野にある谷へ、そして荒れ果てた地を見下ろすピスガの頂へと進んだ。
シホンとオグに対する勝利
21イスラエルは、アモリ人の王シホンに使者を遣わして、次のように言った。 22「あなたの領内を通過させてください。道をそれて畑やぶどう畑に入ったり、井戸の水を飲んだりしません。あなたの国境を越えるまで『王の道』を通ります。」
23しかしシホンは、イスラエルが自分の領内を通過することを許さず、全軍を召集し、イスラエルを迎え撃つために、荒れ野にあるヤハツに軍を進め、イスラエルと戦った。 24しかし、イスラエルは彼を剣にかけて、南はアルノン川から北はヤボク川、東はアンモン人の国境まで、その領土を占領した。アンモン人の国境は堅固であった。 25イスラエルはこうして、そのすべての町を取り、ヘシュボンとその周辺の村落など、アモリ人のすべての町に住んだ。 26ヘシュボンは、アモリ人の王シホンの都である。シホンは先代のモアブ王と戦って、その手からアルノン川に至るまでの全土を奪い取っていた。 27それゆえ、次のように歌う者がいる。
来れ、ヘシュボンは築かれ
シホンの都は固く建てられる。
28ヘシュボンから火が出
シホンの都から炎が噴き出て
モアブのアルを焼き
アルノンのバモトの君たちを滅ぼした。
29モアブよ、お前は災いだ。
ケモシュの民よ、お前は滅びた。
息子たちは難民となり
娘たちはアモリ人の王シホンの捕虜となった。
30我々は彼らを撃ち滅ぼした
ヘシュボンからディボンまで。
我々は荒廃させた
ノファから、メデバまで。
31イスラエルはこうして、アモリ人の地に住んだ。 32その後、モーセはヤゼルを偵察するために人を送り、その周辺の村落を占領し、そこに住んでいたアモリ人を追い出した。 33それから転じて、バシャンに至る道を上って行くと、バシャンの王オグはこれを迎え撃つために、全軍を率いてエドレイに来た。 34主はモーセに言われた。「彼を恐れてはならない。わたしは彼とその全軍、その国をあなたの手に渡した。あなたは、ヘシュボンの住民アモリ人の王シホンにしたように、彼にもせよ。」 35イスラエルは彼とその子らを含む全軍を一人残らず撃ち殺し、その国を占領した。
バラクとバラム
1イスラエルの人々は更に進んで、エリコに近いヨルダン川の対岸にあるモアブの平野に宿営した。 2ツィポルの子バラクは、イスラエルがアモリ人に対してした事をことごとく見た。 3モアブは、このおびただしい数の民に恐れを抱いていた。モアブはイスラエルの人々の前に気力もうせ、 4ミディアン人の長老たちに、「今やこの群衆は、牛が野の草をなめ尽くすように、我々の周りをすべてなめ尽くそうとしている」と言った。
当時、ツィポルの子バラクがモアブ王であった。 5彼は、ユーフラテス川流域にあるアマウ人の町ペトルに住むベオルの子バラムを招こうとして、使者を送り、こう伝えた。「今ここに、エジプトから上って来た一つの民がいる。今や彼らは、地の面を覆い、わたしの前に住んでいる。 6この民はわたしよりも強大だ。今すぐに来て、わたしのためにこの民を呪ってもらいたい。そうすれば、わたしはこれを撃ち破って、この国から追い出すことができるだろう。あなたが祝福する者は祝福され、あなたが呪う者は呪われることを、わたしは知っている。」
7モアブとミディアンの長老たちは占いの礼物を携えてバラムの所に行き、バラクの言葉を伝えた。 8バラムは彼らに言った。「今夜はここに泊まりなさい。主がわたしに告げられるとおりに、あなたたちに伝えよう。」
モアブの長たちは、バラムのもとにとどまった。 9神はバラムのもとに来て言われた。「あなたのもとにいるこれらの者は何者か。」 10バラムは神に答えた。「モアブの王、ツィポルの子バラクがわたしに人を遣わして、 11『今ここに、エジプトから出て来た民がいて、地の面を覆っている。今すぐに来て、わたしのために彼らに呪いをかけてもらいたい。そうすれば、わたしはこれと戦って、追い出すことができるだろう』と申しました。」
12神はバラムに言われた。「あなたは彼らと一緒に行ってはならない。この民を呪ってはならない。彼らは祝福されているからだ。」 13バラムは朝起きると、バラクの長たちに言った。「自分の国に帰りなさい。主は、わたしがあなたたちと一緒に行くことをお許しになりません。」 14モアブの長たちは立ち去り、バラクのもとに来て、「バラムはわたしどもと一緒に来ることを承知しませんでした」と伝えた。
15バラクはもう一度、前よりも多くの、位の高い使者を遣わした。 16彼らはバラムの所に来て言った。「ツィポルの子バラクはこう申します。『どうかわたしのところに来るのを拒まないでください。 17あなたを大いに優遇します。あなたが言われることは何でもします。どうか来て、わたしのためにイスラエルの民に呪いをかけてください。』」 18バラムはバラクの家臣に答えた。
「たとえバラクが、家に満ちる金銀を贈ってくれても、わたしの神、主の言葉に逆らうことは、事の大小を問わず何もできません。 19あなたがたも、今夜はここにとどまって、主がわたしに、この上何とお告げになるか、確かめさせてください。」 20その夜、神はバラムのもとに来て、こう言われた。「これらの者があなたを呼びに来たのなら、立って彼らと共に行くがよい。しかし、わたしがあなたに告げることだけを行わねばならない。」
21バラムは朝起きるとろばに鞍をつけ、モアブの長と共に出かけた。
バラムとろば
22ところが、彼が出発すると、神の怒りが燃え上がった。主の御使いは彼を妨げる者となって、道に立ちふさがった。バラムはろばに乗り、二人の若者を従えていた。 23主の御使いが抜き身の剣を手にして道に立ちふさがっているのを見たろばは、道をそれて畑に踏み込んだ。バラムはろばを打って、道に戻そうとした。 24主の御使いは、ぶどう畑の間の狭い道に立っていた。道の両側には石垣があった。 25ろばは主の御使いを見て、石垣に体を押しつけ、バラムの足も石垣に押しつけたので、バラムはまた、ろばを打った。 26主の御使いは更に進んで来て、右にも左にもそれる余地のない狭い場所に立ちふさがった。 27ろばは主の御使いを見て、バラムを乗せたままうずくまってしまった。バラムは怒りを燃え上がらせ、ろばを杖で打った。 28主がそのとき、ろばの口を開かれたので、ろばはバラムに言った。「わたしがあなたに何をしたというのですか。三度もわたしを打つとは。」 29バラムはろばに言った。「お前が勝手なことをするからだ。もし、わたしの手に剣があったら、即座に殺していただろう。」 30ろばはバラムに言った。「わたしはあなたのろばですし、あなたは今日までずっとわたしに乗って来られたではありませんか。今まであなたに、このようなことをしたことがあるでしょうか。」彼は言った。「いや、なかった。」
31主はこのとき、バラムの目を開かれた。彼は、主の御使いが抜き身の剣を手にして、道に立ちふさがっているのを見た。彼は身をかがめてひれ伏した。 32主の御使いは言った。「なぜ、このろばを三度も打ったのか。見よ、あなたはわたしに向かって道を進み、危険だったから、わたしは妨げる者として出て来たのだ。 33このろばはわたしを見たから、三度わたしを避けたのだ。ろばがわたしを避けていなかったなら、きっと今は、ろばを生かしておいても、あなたを殺していたであろう。」 34バラムは主の御使いに言った。「わたしの間違いでした。あなたがわたしの行く手に立ちふさがっておられるのをわたしは知らなかったのです。もしも、意に反するのでしたら、わたしは引き返します。」 35主の御使いはバラムに言った。「この人たちと共に行きなさい。しかし、ただわたしがあなたに告げることだけを告げなさい。」バラムはバラクの長たちと共に行った。
バラクとバラムの会見
36バラクはバラムが来たと聞くと、モアブのアルまで行って迎えた。この町は国境沿いのアルノン河畔にあった。 37バラクはバラムに言った。「あなたを招くために、何度も使いを送らなければなりませんでした。どうして来られなかったのですか。あなたを優遇することがわたしにできないでしょうか。」 38バラムはバラクに答えた。「御覧のとおり、あなたのところにやって来ました。しかしわたしに、何かを自由に告げる力があるでしょうか。わたしは、神がわたしの口に授けられる言葉だけを告げねばなりません。」 39バラムはバラクに同行し、キルヤト・フツォトに着いた。 40バラクは牛と羊の群れを屠って、バラムに贈り、また彼と共に帰って来た長たちに贈った。
バラムの託宣
41朝になると、バラクはバラムを伴ってバモト・バアルに上った。そこからイスラエルの民の一端が見えた。