創世記 33:1-35:29
エサウとの再会
1ヤコブが目を上げると、エサウが四百人の者を引き連れて来るのが見えた。ヤコブは子供たちをそれぞれ、レアとラケルと二人の側女とに分け、 2側女とその子供たちを前に、レアとその子供たちをその後に、ラケルとヨセフを最後に置いた。 3ヤコブはそれから、先頭に進み出て、兄のもとに着くまでに七度地にひれ伏した。 4エサウは走って来てヤコブを迎え、抱き締め、首を抱えて口づけし、共に泣いた。
5やがて、エサウは顔を上げ、女たちや子供たちを見回して尋ねた。
「一緒にいるこの人々は誰なのか。」
「あなたの僕であるわたしに、神が恵んでくださった子供たちです。」
ヤコブが答えると、 6側女たちが子供たちと共に進み出てひれ伏し、 7次に、レアが子供たちと共に進み出てひれ伏し、最後に、ヨセフとラケルが進み出てひれ伏した。 8エサウは尋ねた。
「今、わたしが出会ったあの多くの家畜は何のつもりか。」
ヤコブが、「御主人様の好意を得るためです」と答えると、 9エサウは言った。
「弟よ、わたしのところには何でも十分ある。お前のものはお前が持っていなさい。」
10ヤコブは言った。
「いいえ。もし御好意をいただけるのであれば、どうぞ贈り物をお受け取りください。兄上のお顔は、わたしには神の御顔のように見えます。このわたしを温かく迎えてくださったのですから。 11どうか、持参しました贈り物をお納めください。神がわたしに恵みをお与えになったので、わたしは何でも持っていますから。」
ヤコブがしきりに勧めたので、エサウは受け取った。
12それからエサウは言った。
「さあ、一緒に出かけよう。わたしが先導するから。」
13「御主人様。ご存じのように、子供たちはか弱く、わたしも羊や牛の子に乳を飲ませる世話をしなければなりません。群れは、一日でも無理に追い立てるとみな死んでしまいます。 14どうか御主人様、僕におかまいなく先にお進みください。わたしは、ここにいる家畜や子供たちの歩みに合わせてゆっくり進み、セイルの御主人様のもとへ参りましょう。」
ヤコブがこう答えたので、 15エサウは言った。
「では、わたしが連れている者を何人か、お前のところに残しておくことにしよう。」
「いいえ。それには及びません。御好意だけで十分です」と答えたので、 16エサウは、その日セイルへの道を帰って行った。 17ヤコブはスコトへ行き、自分の家を建て、家畜の小屋を作った。そこで、その場所の名はスコト(小屋)と呼ばれている。
18ヤコブはこうして、パダン・アラムから無事にカナン地方にあるシケムの町に着き、町のそばに宿営した。 19ヤコブは、天幕を張った土地の一部を、シケムの父ハモルの息子たちから百ケシタで買い取り、 20そこに祭壇を建てて、それをエル・エロヘ・イスラエルと呼んだ。
シケムでの出来事
1あるとき、レアとヤコブとの間に生まれた娘のディナが土地の娘たちに会いに出かけたが、 2その土地の首長であるヒビ人ハモルの息子シケムが彼女を見かけて捕らえ、共に寝て辱めた。 3シケムはヤコブの娘ディナに心を奪われ、この若い娘を愛し、言い寄った。 4更にシケムは、父ハモルに言った。
「どうか、この娘と結婚させてください。」
5ヤコブは、娘のディナが汚されたことを聞いたが、息子たちは家畜を連れて野に出ていたので、彼らが帰るまで黙っていた。 6シケムの父ハモルがヤコブと話し合うためにやって来たとき、 7ヤコブの息子たちが野から帰って来てこの事を聞き、皆、互いに嘆き、また激しく憤った。シケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルに対して恥ずべきことを行ったからである。それはしてはならないことであった。 8ハモルは彼らと話した。
「息子のシケムは、あなたがたの娘さんを恋い慕っています。どうか、娘さんを息子の嫁にしてください。 9お互いに姻戚関係を結び、あなたがたの娘さんたちをわたしどもにくださり、わたしどもの娘を嫁にしてくださいませんか。 10そして、わたしどもと一緒に住んでください。あなたがたのための土地も十分あります。どうか、ここに移り住んで、自由に使ってください。」
11シケムも、ディナの父や兄弟たちに言った。「ぜひとも、よろしくお願いします。お申し出があれば何でも差し上げます。 12どんなに高い結納金でも贈り物でも、お望みどおりに差し上げます。ですから、ぜひあの方をわたしの妻にください。」 13しかし、シケムが妹のディナを汚したので、ヤコブの息子たちは、シケムとその父ハモルをだましてこう答えた。
14「割礼を受けていない男に、妹を妻として与えることはできません。そのようなことは我々の恥とするところです。 15ただ、次の条件がかなえられれば、あなたたちに同意しましょう。それは、あなたたちの男性が皆、割礼を受けて我々と同じようになることです。 16そうすれば、我々の娘たちをあなたたちに与え、あなたたちの娘を我々がめとります。そして我々は、あなたたちと一緒に住んで一つの民となります。 17しかし、もし割礼を受けることに同意しないなら、我々は娘を連れてここを立ち去ることにします。」
18ハモルとその息子シケムは、この条件なら受け入れてもよいと思った。 19とくにシケムは、ヤコブの娘を愛していたので、ためらわず実行することにした。彼は、ハモル家の中では最も尊敬されていた。 20ハモルと息子シケムは、町の門のところへ行き町の人々に提案した。
21「あの人たちは、我々と仲良くやっていける人たちだ。彼らをここに住まわせ、この土地を自由に使ってもらうことにしようではないか。土地は御覧のとおり十分広いから、彼らが来ても大丈夫だ。そして、彼らの娘たちを我々の嫁として迎え、我々の娘たちを彼らに与えようではないか。 22ただ、次の条件がかなえられれば、あの人たちは我々と一緒に住み、一つの民となることに同意するというのだ。それは、彼らが割礼を受けているように、我々も男性は皆、割礼を受けることだ。 23そうすれば、彼らの家畜の群れも財産も動物もみな、我々のものになるではないか。それには、ただ彼らの条件に同意さえすれば、彼らは我々と一緒に住むことができるのだ。」
24町の門のところに集まっていた人々は皆、ハモルと息子シケムの提案を受け入れた。町の門のところに集まっていた男性はこうして、すべて割礼を受けた。 25三日目になって、男たちがまだ傷の痛みに苦しんでいたとき、ヤコブの二人の息子、つまりディナの兄のシメオンとレビは、めいめい剣を取って難なく町に入り、男たちをことごとく殺した。 26ハモルと息子シケムも剣にかけて殺し、シケムの家からディナを連れ出した。 27ヤコブの息子たちは、倒れている者たちに襲いかかり、更に町中を略奪した。自分たちの妹を汚したからである。 28そして、羊や牛やろばなど、町の中のものも野にあるものも奪い取り、 29家の中にあるものもみな奪い、女も子供もすべて捕虜にした。
30「困ったことをしてくれたものだ。わたしはこの土地に住むカナン人やペリジ人の憎まれ者になり、のけ者になってしまった。こちらは少人数なのだから、彼らが集まって攻撃してきたら、わたしも家族も滅ぼされてしまうではないか」とヤコブがシメオンとレビに言うと、 31二人はこう言い返した。
「わたしたちの妹が娼婦のように扱われてもかまわないのですか。」
再びベテルへ
1神はヤコブに言われた。「さあ、ベテルに上り、そこに住みなさい。そしてその地に、あなたが兄エサウを避けて逃げて行ったとき、あなたに現れた神のための祭壇を造りなさい。」
2ヤコブは、家族の者や一緒にいるすべての人々に言った。「お前たちが身に着けている外国の神々を取り去り、身を清めて衣服を着替えなさい。 3さあ、これからベテルに上ろう。わたしはその地に、苦難の時わたしに答え、旅の間わたしと共にいてくださった神のために祭壇を造る。」 4人々は、持っていた外国のすべての神々と、着けていた耳飾りをヤコブに渡したので、ヤコブはそれらをシケムの近くにある樫の木の下に埋めた。 5こうして一同は出発したが、神が周囲の町々を恐れさせたので、ヤコブの息子たちを追跡する者はなかった。 6ヤコブはやがて、一族の者すべてと共に、カナン地方のルズ、すなわちベテルに着き、 7そこに祭壇を築いて、その場所をエル・ベテルと名付けた。兄を避けて逃げて行ったとき、神がそこでヤコブに現れたからである。
8リベカの乳母デボラが死に、ベテルの下手にある樫の木の下に葬られた。そこで、その名はアロン・バクト(嘆きの樫の木)と呼ばれるようになった。
9ヤコブがパダン・アラムから帰って来たとき、神は再びヤコブに現れて彼を祝福された。 10神は彼に言われた。
「あなたの名はヤコブである。しかし、あなたの名はもはやヤコブと呼ばれない。イスラエルがあなたの名となる。」
神はこうして、彼をイスラエルと名付けられた。
11神は、また彼に言われた。
「わたしは全能の神である。
産めよ、増えよ。
あなたから
一つの国民、いや多くの国民の群れが起こり
あなたの腰から王たちが出る。
12わたしは、アブラハムとイサクに与えた土地を
あなたに与える。
また、あなたに続く子孫にこの土地を与える。」
13神はヤコブと語られた場所を離れて昇って行かれた。 14ヤコブは、神が自分と語られた場所に記念碑を立てた。それは石の柱で、彼はその上にぶどう酒を注ぎかけ、また油を注いだ。 15そしてヤコブは、神が自分と語られた場所をベテルと名付けた。
ラケルの死
16一同がベテルを出発し、エフラタまで行くにはまだかなりの道のりがあるときに、ラケルが産気づいたが、難産であった。 17ラケルが産みの苦しみをしているとき、助産婦は彼女に、「心配ありません。今度も男の子ですよ」と言った。 18ラケルが最後の息を引き取ろうとするとき、その子をベン・オニ(わたしの苦しみの子)と名付けたが、父はこれをベニヤミン(幸いの子)と呼んだ。
19ラケルは死んで、エフラタ、すなわち今日のベツレヘムへ向かう道の傍らに葬られた。 20ヤコブは、彼女の葬られた所に記念碑を立てた。それは、ラケルの葬りの碑として今でも残っている。 21イスラエルは更に旅を続け、ミグダル・エデルを過ぎた所に天幕を張った。 22イスラエルがそこに滞在していたとき、ルベンは父の側女ビルハのところへ入って寝た。このことはイスラエルの耳にも入った。
ヤコブの息子たち
ヤコブの息子は十二人であった。 23レアの息子がヤコブの長男ルベン、それからシメオン、レビ、ユダ、イサカル、ゼブルン、 24ラケルの息子がヨセフとベニヤミン、 25ラケルの召し使いビルハの息子がダンとナフタリ、 26レアの召し使いジルパの息子がガドとアシェルである。これらは、パダン・アラムで生まれたヤコブの息子たちである。
イサクの死
27ヤコブは、キルヤト・アルバ、すなわちヘブロンのマムレにいる父イサクのところへ行った。そこは、イサクだけでなく、アブラハムも滞在していた所である。 28イサクの生涯は百八十年であった。 29イサクは息を引き取り、高齢のうちに満ち足りて死に、先祖の列に加えられた。息子のエサウとヤコブが彼を葬った。