創世記 46:1-48:22
ヤコブのエジプト下り
1イスラエルは、一家を挙げて旅立った。そして、ベエル・シェバに着くと、父イサクの神にいけにえをささげた。 2その夜、幻の中で神がイスラエルに、「ヤコブ、ヤコブ」と呼びかけた。彼が、「はい」と答えると、 3神は言われた。
「わたしは神、あなたの父の神である。エジプトへ下ることを恐れてはならない。わたしはあなたをそこで大いなる国民にする。 4わたしがあなたと共にエジプトへ下り、わたしがあなたを必ず連れ戻す。ヨセフがあなたのまぶたを閉じてくれるであろう。」
5ヤコブはベエル・シェバを出発した。イスラエルの息子たちは、ファラオが遣わした馬車に父ヤコブと子供や妻たちを乗せた。 6ヤコブとその子孫は皆、カナン地方で得た家畜や財産を携えてエジプトへ向かった。 7こうしてヤコブは、息子や孫、娘や孫娘など、子孫を皆連れてエジプトへ行った。
8エジプトへ行ったイスラエルの人々、すなわちヤコブとその子らの名前は次のとおりである。ヤコブの長男ルベン。 9ルベンの息子のハノク、パル、ヘツロン、カルミ。 10シメオンの息子のエムエル、ヤミン、オハド、ヤキン、ツォハル、およびカナンの女による息子シャウル。 11レビの息子のゲルション、ケハト、メラリ。 12ユダの息子のエル、オナン、シェラ、ペレツ、ゼラ。ただし、エルとオナンはカナンの土地で死んだ。ペレツの息子のヘツロン、ハムル。 13イサカルの息子のトラ、プワ、ヨブ、シムロン。 14ゼブルンの息子のセレド、エロン、ヤフレエル。 15これらは、レアがパダン・アラムでヤコブとの間に産んだ子らである。ヤコブの娘ディナも含め、男女の総数は三十三名である。
16ガドの息子のツィフヨン、ハギ、シュニ、エツボン、エリ、アロディ、アルエリ。 17アシェルの息子のイムナ、イシュワ、イシュビ、ベリア、および妹セラ。ベリアの息子はヘベル、マルキエル。 18これらは、ラバンが娘レアに与えたジルパの子らである。ジルパがヤコブとの間に産んだのは十六名である。
19ヤコブの妻ラケルの息子のヨセフ、ベニヤミン。 20ヨセフには、エジプトの国で息子が生まれた。それは、オンの祭司のポティ・フェラの娘アセナトが彼との間に産んだマナセとエフライムである。 21ベニヤミンの息子のベラ、ベケル、アシュベル、ゲラ、ナアマン、エヒ、ロシュ、ムピム、フピム、アルド。 22これらは、ヤコブとの間に生まれたラケルの子らで、その総数は十四名である。
23ダンの息子のフシム。 24ナフタリの息子のヤフツェエル、グニ、イエツェル、シレム。 25これらは、ラバンが娘ラケルに与えたビルハの子らである。ビルハがヤコブとの間に産んだ者の総数は七名である。
26ヤコブの腰から出た者で、ヤコブと共にエジプトへ行った者は、ヤコブの息子の妻たちを除けば、総数六十六名である。 27エジプトで生まれたヨセフの息子は二人である。従って、エジプトへ行ったヤコブの家族は総数七十名であった。
ゴシェンでの再会
28ヤコブは、ヨセフをゴシェンに連れて来るために、ユダを一足先にヨセフのところへ遣わした。そして一行はゴシェンの地に到着した。 29ヨセフは車を用意させると、父イスラエルに会いにゴシェンへやって来た。ヨセフは父を見るやいなや、父の首に抱きつき、その首にすがったまま、しばらく泣き続けた。 30イスラエルはヨセフに言った。
「わたしはもう死んでもよい。お前がまだ生きていて、お前の顔を見ることができたのだから。」
31ヨセフは、兄弟や父の家族の者たちに言った。
「わたしはファラオのところへ報告のため参上し、『カナン地方にいたわたしの兄弟と父の家族の者たちがわたしのところに参りました。 32この人たちは羊飼いで、家畜の群れを飼っていたのですが、羊や牛をはじめ、すべての財産を携えてやって来ました』と申します。 33ですから、ファラオがあなたたちをお召しになって、『仕事は何か』と言われたら、 34『あなたの僕であるわたしどもは、先祖代々、幼い時から今日まで家畜の群れを飼う者でございます』と答えてください。そうすれば、あなたたちはゴシェンの地域に住むことができるでしょう。」
羊飼いはすべて、エジプト人のいとうものであったのである。
ファラオとの会見
1ヨセフはファラオのところへ行き、「わたしの父と兄弟たちが、羊や牛をはじめ、すべての財産を携えて、カナン地方からやって来て、今、ゴシェンの地におります」と報告した。 2そのときヨセフは、兄弟の中から五人を選んで、ファラオの前に連れて行った。 3ファラオはヨセフの兄弟たちに言った。
「お前たちの仕事は何か。」
兄弟たちが、「あなたの僕であるわたしどもは、先祖代々、羊飼いでございます」と答え、 4更に続けてファラオに言った。
「わたしどもはこの国に寄留させていただきたいと思って、参りました。カナン地方は飢饉がひどく、僕たちの羊を飼うための牧草がありません。僕たちをゴシェンの地に住まわせてください。」
5ファラオはヨセフに向かって言った。
「父上と兄弟たちが、お前のところにやって来たのだ。 6エジプトの国のことはお前に任せてあるのだから、最も良い土地に父上と兄弟たちを住まわせるがよい。ゴシェンの地に住まわせるのもよかろう。もし、一族の中に有能な者がいるなら、わたしの家畜の監督をさせるがよい。」
7それから、ヨセフは父ヤコブを連れて来て、ファラオの前に立たせた。ヤコブはファラオに祝福の言葉を述べた。 8ファラオが、「あなたは何歳におなりですか」とヤコブに語りかけると、 9ヤコブはファラオに答えた。
「わたしの旅路の年月は百三十年です。わたしの生涯の年月は短く、苦しみ多く、わたしの先祖たちの生涯や旅路の年月には及びません。」
10ヤコブは、別れの挨拶をして、ファラオの前から退出した。
11ヨセフはファラオが命じたように、父と兄弟たちの住まいを定め、エジプトの国に所有地を与えた。そこは、ラメセス地方の最も良い土地であった。 12ヨセフはまた、父と兄弟たちと父の家族の者すべてを養い、扶養すべき者の数に従って食糧を与えた。
ヨセフの政策
13飢饉が極めて激しく、世界中に食糧がなくなった。エジプトの国でも、カナン地方でも、人々は飢饉のために苦しみあえいだ。 14ヨセフは、エジプトの国とカナン地方の人々が穀物の代金として支払った銀をすべて集め、それをファラオの宮廷に納めた。 15エジプトの国にもカナン地方にも、銀が尽き果てると、エジプト人は皆、ヨセフのところにやって来て、「食べる物をください。あなたさまは、わたしどもを見殺しになさるおつもりですか。銀はなくなってしまいました」と言った。
16ヨセフは答えた。「家畜を連れて来なさい。もし銀がなくなったのなら、家畜と引き換えに与えよう。」 17人々が家畜をヨセフのところに連れて来ると、ヨセフは、馬や、羊や牛の群れや、ろばと引き換えに食糧を与えた。ヨセフはこうして、その年、すべての家畜と引き換えに人々に食糧を分け与えた。 18その年も終わり、次の年になると、人々はまたヨセフのところに来て、言った。
「御主君には、何もかも隠さずに申し上げます。銀はすっかりなくなり、家畜の群れも御主君のものとなって、御覧のように残っているのは、わたしどもの体と農地だけです。 19どうしてあなたさまの前で、わたしどもと農地が滅んでしまってよいでしょうか。食糧と引き換えに、わたしどもと土地を買い上げてください。わたしどもは農地とともに、ファラオの奴隷になります。種をお与えください。そうすれば、わたしどもは死なずに生きることができ、農地も荒れ果てないでしょう。」
20ヨセフは、エジプト中のすべての農地をファラオのために買い上げた。飢饉が激しくなったので、エジプト人は皆自分の畑を売ったからである。土地はこうして、ファラオのものとなった。 21また民については、エジプト領の端から端まで、ヨセフが彼らを奴隷にした。 22ただし、祭司の農地だけは買い上げなかった。祭司にはファラオからの給与があって、ファラオが与える給与で生活していたので、農地を売らなかったからである。
23ヨセフは民に言った。
「よいか、お前たちは今日、農地とともにファラオに買い取られたのだ。さあ、ここに種があるから、畑に蒔きなさい。 24収穫の時には、五分の一をファラオに納め、五分の四はお前たちのものとするがよい。それを畑に蒔く種にしたり、お前たちや家族の者の食糧とし、子供たちの食糧としなさい。」
25彼らは言った。
「あなたさまはわたしどもの命の恩人です。御主君の御好意によって、わたしどもはファラオの奴隷にさせていただきます。」
26ヨセフはこのように、収穫の五分の一をファラオに納めることを、エジプトの農業の定めとした。それは今日まで続いている。ただし、祭司の農地だけはファラオのものにならなかった。
ヤコブの遺言
27イスラエルは、エジプトの国、ゴシェンの地域に住み、そこに土地を得て、子を産み、大いに数を増した。 28ヤコブは、エジプトの国で十七年生きた。ヤコブの生涯は百四十七年であった。
29イスラエルは死ぬ日が近づいたとき、息子ヨセフを呼び寄せて言った。
「もし、お前がわたしの願いを聞いてくれるなら、お前の手をわたしの腿の間に入れ、わたしのために慈しみとまことをもって実行すると、誓ってほしい。どうか、わたしをこのエジプトには葬らないでくれ。 30わたしが先祖たちと共に眠りについたなら、わたしをエジプトから運び出して、先祖たちの墓に葬ってほしい。」
ヨセフが、「必ず、おっしゃるとおりにいたします」と答えると、 31「では、誓ってくれ」と言ったので、ヨセフは誓った。イスラエルは、寝台の枕もとで感謝を表した。
ヤコブ、ヨセフの子らを祝福する
1これらのことの後で、ヨセフに、「お父上が御病気です」との知らせが入ったので、ヨセフは二人の息子マナセとエフライムを連れて行った。 2ある人がヤコブに、「御子息のヨセフさまが、ただいまお見えになりました」と知らせると、イスラエルは力を奮い起こして、寝台の上に座った。 3ヤコブはヨセフに言った。
「全能の神がカナン地方のルズでわたしに現れて、わたしを祝福してくださったとき、 4こう言われた。
『あなたの子孫を繁栄させ、数を増やし
あなたを諸国民の群れとしよう。
この土地をあなたに続く子孫に
永遠の所有地として与えよう。』
5今、わたしがエジプトのお前のところに来る前に、エジプトの国で生まれたお前の二人の息子をわたしの子供にしたい。エフライムとマナセは、ルベンやシメオンと同じように、わたしの子となるが、 6その後に生まれる者はお前のものとしてよい。しかし、彼らの嗣業の土地は兄たちの名で呼ばれるであろう。
7わたしはパダンから帰る途中、ラケルに死なれてしまった。あれはカナン地方で、エフラトまで行くには、まだかなりの道のりがある途中でのことだった。わたしはラケルを、エフラト、つまり今のベツレヘムへ向かう道のほとりに葬った。」
8イスラエルは、ヨセフの息子たちを見ながら、「これは誰か」と尋ねた。 9ヨセフが父に、「神が、ここで授けてくださったわたしの息子です」と答えると、父は、「ここへ連れて来なさい。彼らを祝福しよう」と言った。 10イスラエルの目は老齢のためかすんでよく見えなかったので、ヨセフが二人の息子を父のもとに近寄らせると、父は彼らに口づけをして抱き締めた。
11イスラエルはヨセフに言った。
「お前の顔さえ見ることができようとは思わなかったのに、なんと、神はお前の子供たちをも見させてくださった。」
12ヨセフは彼らを父の膝から離し、地にひれ伏して拝した。 13ヨセフは二人の息子のうち、エフライムを自分の右手でイスラエルの左手に向かわせ、マナセを自分の左手でイスラエルの右手に向かわせ、二人を近寄らせた。 14イスラエルは右手を伸ばして、弟であるエフライムの頭の上に置き、左手をマナセの頭の上に置いた。つまり、マナセが長男であるのに、彼は両手を交差して置いたのである。
15そして、ヨセフを祝福して言った。
「わたしの先祖アブラハムとイサクが
その御前に歩んだ神よ。
わたしの生涯を今日まで
導かれた牧者なる神よ。
16わたしをあらゆる苦しみから
贖われた御使いよ。
どうか、この子供たちの上に
祝福をお与えください。
どうか、わたしの名と
わたしの先祖アブラハム、イサクの名が
彼らによって覚えられますように。
どうか、彼らがこの地上に
数多く増え続けますように。」
17ヨセフは、父が右手をエフライムの頭の上に置いているのを見て、不満に思い、父の手を取ってエフライムの頭からマナセの頭へ移そうとした。 18ヨセフは父に言った。
「父上、そうではありません。これが長男ですから、右手をこれの頭の上に置いてください。」
19ところが、父はそれを拒んで言った。
「いや、分かっている。わたしの子よ、わたしには分かっている。この子も一つの民となり、大きくなるであろう。しかし、弟の方が彼よりも大きくなり、その子孫は国々に満ちるものとなる。」
20その日、父は彼らを祝福して言った。
「あなたによって
イスラエルは人を祝福して言うであろう。
『どうか、神があなたを
エフライムとマナセのように
してくださるように。』」
彼はこのように、エフライムをマナセの上に立てたのである。
21イスラエルはヨセフに言った。
「間もなく、わたしは死ぬ。だが、神がお前たちと共にいてくださり、きっとお前たちを先祖の国に導き帰らせてくださる。 22わたしは、お前に兄弟たちよりも多く、わたしが剣と弓をもってアモリ人の手から取った一つの分け前(シェケム)を与えることにする。」