コヘレトの言葉 7:1-9:18
1名声は香油にまさる。
死ぬ日は生まれる日にまさる。
2弔いの家に行くのは
酒宴の家に行くのにまさる。
そこには人皆の終りがある。
命あるものよ、心せよ。
3悩みは笑いにまさる。
顔が曇るにつれて心は安らぐ。
4賢者の心は弔いの家に
愚者の心は快楽の家に。
5賢者の叱責を聞くのは
愚者の賛美を聞くのにまさる。
6愚者の笑いは鍋の下にはぜる柴の音。
これまた空しい。
7賢者さえも、虐げられれば狂い
賄賂をもらえば理性を失う。
8事の終りは始めにまさる。
気位が高いよりも気が長いのがよい。
9気短に怒るな。
怒りは愚者の胸に宿るもの。
10昔の方がよかったのはなぜだろうかと言うな。
それは賢い問いではない。
11知恵は遺産に劣らず良いもの。
日の光を見る者の役に立つ。
12知恵の陰に宿れば銀の陰に宿る、というが
知っておくがよい
知恵はその持ち主に命を与える、と。
13神の御業を見よ。
神が曲げたものを、誰が直しえようか。
14順境には楽しめ、逆境にはこう考えよ
人が未来について無知であるようにと
神はこの両者を併せ造られた、と。
15この空しい人生の日々に
わたしはすべてを見極めた。
善人がその善のゆえに滅びることもあり
悪人がその悪のゆえに長らえることもある。
16善人すぎるな、賢すぎるな
どうして滅びてよかろう。
17悪事をすごすな、愚かすぎるな
どうして時も来ないのに死んでよかろう。
18一つのことをつかむのはよいが
ほかのことからも手を放してはいけない。
神を畏れ敬えば
どちらをも成し遂げることができる。
19知恵は賢者を力づけて
町にいる十人の権力者よりも強くする。
20善のみ行って罪を犯さないような人間は
この地上にはいない。
21人の言うことをいちいち気にするな。
そうすれば、僕があなたを呪っても
聞き流していられる。
22あなた自身も何度となく他人を呪ったことを
あなたの心はよく知っているはずだ。
23わたしはこういうことをすべて
知恵を尽くして試してみた。
賢者でありたいと思ったが
それはわたしから遠いことであった。
24存在したことは、はるかに遠く
その深い深いところを誰が見いだせようか。
25わたしは熱心に知識を求め
知恵と結論を追求し
悪は愚行、愚行は狂気であることを
悟ろうとした。
26わたしの見いだしたところでは
死よりも、罠よりも、苦い女がある。
その心は網、その手は枷。
神に善人と認められた人は彼女を免れるが
一歩誤れば、そのとりことなる。
27見よ、これがわたしの見いだしたところ
――コヘレトの言葉――
ひとつひとつ調べて見いだした結論。
28わたしの魂はなお尋ね求めて見いださなかった。
千人に一人という男はいたが
千人に一人として、良い女は見いださなかった。
29ただし見よ、見いだしたことがある。
神は人間をまっすぐに造られたが
人間は複雑な考え方をしたがる、ということ。
1「人の知恵は顔に光を添え、固い顔も和らげる。」賢者のように、この言葉の解釈ができるのは誰か。 2それは、わたしだ。すなわち、王の言葉を守れ、神に対する誓いと同様に。 3気短に王の前を立ち去ろうとするな。不快なことに固執するな。王は望むままにふるまうのだから。 4王の言った言葉が支配する。だれも彼に指図することはできない。 5命令に従っていれば、不快な目に遭うことはない。賢者はふさわしい時ということを心得ている。 6何事にもふさわしい時があるものだ。人間には災難のふりかかることが多いが、 7何事が起こるかを知ることはできない。どのように起こるかも、誰が教えてくれようか。
8人は霊を支配できない。
霊を押しとどめることはできない。
死の日を支配することもできない。
戦争を免れる者もない。
悪は悪を行う者を逃れさせはしない。
9わたしはこのようなことを見極め、太陽の下に起こるすべてのことを、熱心に考えた。今は、人間が人間を支配して苦しみをもたらすような時だ。
10だから、わたしは悪人が葬儀をしてもらうのも、聖なる場所に出入りするのも、また、正しいことをした人が町で忘れ去られているのも見る。これまた、空しい。
11悪事に対する条令が速やかに実施されないので
人は大胆に悪事をはたらく。
12罪を犯し百度も悪事をはたらいている者が
なお、長生きしている。
にもかかわらず、わたしには分かっている。
神を畏れる人は、畏れるからこそ幸福になり
13悪人は神を畏れないから、長生きできず
影のようなもので、決して幸福にはなれない。
14この地上には空しいことが起こる。
善人でありながら
悪人の業の報いを受ける者があり
悪人でありながら
善人の業の報いを受ける者がある。
これまた空しいと、わたしは言う。
15それゆえ、わたしは快楽をたたえる。
太陽の下、人間にとって
飲み食いし、楽しむ以上の幸福はない。
それは、太陽の下、神が彼に与える人生の
日々の労苦に添えられたものなのだ。
16わたしは知恵を深めてこの地上に起こることを見極めようと心を尽くし、昼も夜も眠らずに努め、 17神のすべての業を観察した。まことに、太陽の下に起こるすべてのことを悟ることは、人間にはできない。人間がどんなに労苦し追求しても、悟ることはできず、賢者がそれを知ったと言おうとも、彼も悟ってはいない。
1わたしは心を尽くして次のようなことを明らかにした。すなわち
善人、賢人、そして彼らの働きは
神の手の中にある。
愛も、憎しみも、人間は知らない。
人間の前にあるすべてのことは 2何事も同じで
同じひとつのことが善人にも悪人にも良い人にも
清い人にも不浄な人にも
いけにえをささげる人にもささげない人にも臨む。
良い人に起こることが罪を犯す人にも起こり
誓いを立てる人に起こることが
誓いを恐れる人にも起こる。
3太陽の下に起こるすべてのことの中で最も悪いのは、だれにでも同じひとつのことが臨むこと、その上、生きている間、人の心は悪に満ち、思いは狂っていて、その後は死ぬだけだということ。
4命あるもののうちに数えられてさえいれば
まだ安心だ。
犬でも、生きていれば、死んだ獅子よりましだ。
5生きているものは、少なくとも知っている
自分はやがて死ぬ、ということを。
しかし、死者はもう何ひとつ知らない。
彼らはもう報いを受けることもなく
彼らの名は忘れられる。
6その愛も憎しみも、情熱も、既に消えうせ
太陽の下に起こることのどれひとつにも
もう何のかかわりもない。
7さあ、喜んであなたのパンを食べ
気持よくあなたの酒を飲むがよい。
あなたの業を神は受け入れていてくださる。
8どのようなときも純白の衣を着て
頭には香油を絶やすな。
9太陽の下、与えられた空しい人生の日々
愛する妻と共に楽しく生きるがよい。
それが、太陽の下で労苦するあなたへの
人生と労苦の報いなのだ。
10何によらず手をつけたことは熱心にするがよい。
いつかは行かなければならないあの陰府には
仕事も企ても、知恵も知識も、もうないのだ。
11太陽の下、再びわたしは見た。
足の速い者が競走に、強い者が戦いに
必ずしも勝つとは言えない。
知恵があるといってパンにありつくのでも
聡明だからといって富を得るのでも
知識があるといって好意をもたれるのでもない。
時と機会はだれにも臨むが
12人間がその時を知らないだけだ。
魚が運悪く網にかかったり
鳥が罠にかかったりするように
人間も突然不運に見舞われ、罠にかかる。
13わたしはまた太陽の下に、知恵について次のような実例を見て、強い印象を受けた。
14ある小さな町に僅かの住民がいた。そこへ強大な王が攻めて来て包囲し、大きな攻城堡塁を築いた。 15その町に一人の貧しい賢人がいて、知恵によって町を救った。しかし、貧しいこの人のことは、だれの口にものぼらなかった。 16それで、わたしは言った。
知恵は力にまさるというが
この貧しい人の知恵は侮られ
その言葉は聞かれない。
17支配者が愚か者の中で叫ぶよりは
賢者の静かに説く言葉が聞かれるものだ。
18知恵は武器にまさる。
一度の過ちは多くの善をそこなう。