列王記下 4:1-6:33
エリシャの奇跡
1預言者の仲間の妻の一人がエリシャに助けを求めて叫んだ。「あなたの僕であるわたしの夫が死んでしまいました。ご存じのようにあなたの僕は主を畏れ敬う人でした。ところが債権者が来てわたしの子供二人を連れ去り、奴隷にしようとしています。」 2エリシャが、「何をしてあげられるだろうか。あなたの家に何があるのか言いなさい」と促すと、彼女は、「油の壺一つのほか、はしための家には何もありません」と答えた。 3彼は言った。「外に行って近所の人々皆から器を借りて来なさい。空の器をできるだけたくさん借りて来なさい。 4家に帰ったら、戸を閉めて子供たちと一緒に閉じこもり、その器のすべてに油を注ぎなさい。いっぱいになったものは脇に置くのです。」
5彼女はエリシャのもとから出て行くと、戸を閉めて子供たちと一緒に閉じこもり、子供たちが器を持って来ると、それに油を注いだ。 6器がどれもいっぱいになると、彼女は、「もっと器を持っておいで」と子供に言ったが、「器はもうない」と子供が答えた。油は止まった。 7彼女が神の人のもとに行ってそのことを知らせると、彼は言った。「その油を売りに行き、負債を払いなさい。あなたと子供たちはその残りで生活していくことができる。」
8ある日、エリシャはシュネムに行った。そこに一人の裕福な婦人がいて、彼を引き止め、食事を勧めた。以来彼はそこを通るたびに、立ち寄って食事をするようになった。 9彼女は夫に言った。「いつもわたしたちのところにおいでになるあの方は、聖なる神の人であることが分かりました。 10あの方のために階上に壁で囲った小さな部屋を造り、寝台と机と椅子と燭台を備えましょう。おいでのときはそこに入っていただけます。」 11ある日、エリシャはそこに来て、その階上の部屋に入って横になり、 12従者ゲハジに、「あのシュネムの婦人を呼びなさい」と命じた。ゲハジが呼ぶと、彼女は彼の前に来て立った。 13エリシャはゲハジに言った。「彼女に伝えなさい。『あなたはわたしたちのためにこのように何事にも心を砕いてくれた。あなたのために何をしてあげればよいのだろうか。王か軍の司令官に話してほしいことが何かあるのか。』」彼女は、「わたしは同族の者に囲まれて何不足なく暮らしています」と答えた。 14エリシャは、「彼女のために何をすればよいのだろうか」と言うので、ゲハジは、「彼女には子供がなく、夫は年を取っています」と答えた。 15そこでエリシャは彼女を呼ぶように命じた。ゲハジが呼びに行ったので、彼女は来て入り口に立った。 16エリシャは、「来年の今ごろ、あなたは男の子を抱いている」と告げた。彼女は答えた。「いいえ、わたしの主人、神の人よ、はしためを欺かないでください」と答えた。 17しかし、この婦人は身ごもり、エリシャが告げたとおり翌年の同じころ、男の子を産んだ。 18その子は大きくなったが、ある日刈り入れをする人々と共にいた父のところに行ったとき、 19「頭が、頭が」と言った。父が従者に、「この子を母親のところに抱いて行ってくれ」と言ったので、 20従者はその子を母親のところに抱いて行った。その子は母の膝の上でじっとしていたが、昼ごろ死んでしまった。 21彼女は上って行って神の人の寝台にその子を横たえ、戸を閉めて出て来た。 22それから夫を呼び、「従者一人と雌ろば一頭をわたしのために出してください。神の人のもとに急いで行って、すぐに戻って来ます」と言った。 23夫は、「どうして、今日その人のもとに行くのか。新月でも安息日でもないのに」と言ったが、「行って参ります」と彼女は言い、 24雌ろばに鞍を置き、従者に、「手綱を引いて進んで行きなさい。わたしが命じないかぎり進むのをやめてはいけません」と命じた。 25こうして彼女は出かけ、カルメル山にいる神の人のもとに来た。神の人は遠くから彼女を見て、従者ゲハジに言った。「見よ、あのシュネムの婦人だ。 26すぐに走って行って彼女を迎え、『お変わりありませんか、御主人はお変わりありませんか。お子さんはお変わりありませんか』と挨拶しなさい。」彼女は、「変わりはございません」と答えたが、 27山の上にいる神の人のもとに来て、その足にすがりついた。ゲハジは近寄って引き離そうとしたが、神の人は言った。「そのままにしておきなさい。彼女はひどく苦しんでいる。主はそれをわたしに隠して知らされなかったのだ。」 28すると彼女は言った。「わたしがあなたに子供を求めたことがありましょうか。わたしを欺かないでくださいと申し上げたではありませんか。」 29そこでエリシャはゲハジに命じた。「腰に帯を締め、わたしの杖を手に持って行きなさい。だれかに会っても挨拶してはならない。まただれかが挨拶しても答えてはならない。お前はわたしの杖をその子供の顔の上に置きなさい。」 30その子供の母親が、「主は生きておられ、あなた御自身も生きておられます。わたしは決してあなたを離れません」と言ったので、エリシャは立ち上がり、彼女の後について行った。 31ゲハジは二人より先に行って、杖をその子供の顔の上に置いたが、声も出さず、何の反応も示さなかったので、引き返してエリシャに会い、「子供は目を覚ましませんでした」と告げた。 32エリシャが家に着いてみると、彼の寝台に子供は死んで横たわっていた。 33彼は中に入って戸を閉じ、二人だけになって主に祈った。 34そしてエリシャは寝台に上がって、子供の上に伏し、自分の口を子供の口に、目を子供の目に、手を子供の手に重ねてかがみ込むと、子供の体は暖かくなった。 35彼は起き上がり、家の中をあちこち歩き回ってから、再び寝台に上がって子供の上にかがみ込むと、子供は七回くしゃみをして目を開いた。 36エリシャはゲハジを呼び、「あのシュネムの婦人を呼びなさい」と言った。ゲハジに呼ばれて彼女がエリシャのもとに来ると、エリシャは、「あなたの子を受け取りなさい」と言った。 37彼女は近づいてエリシャの足もとに身をかがめ、地にひれ伏し、自分の子供を受け取って出て行った。
38エリシャはギルガルに帰った。その地は飢饉に見舞われていた。預言者の仲間たちが彼の前に座っていたときのこと、彼は従者に、「大きな鍋を火にかけ、預言者の仲間たちのために煮物を作りなさい」と命じた。 39彼らの一人が野に草を摘みに出て行き、野生のつる草を見つけ、そこから野生のうりを上着いっぱいに集めて帰って来た。彼らはそれが何であるかを知らなかったので、刻んで煮物の鍋に入れ、 40人々に食べさせようとよそった。だが、その煮物を口にしたとき、人々は叫んで、「神の人よ、鍋には死の毒が入っています」と言った。彼らはそれを食べることができなかった。 41エリシャは、「麦粉を持って来るように」と命じ、それを鍋に投げ入れてから、「よそって人々に食べさせなさい」と言うと、鍋には有害なものはなくなっていた。
42一人の男がバアル・シャリシャから初物のパン、大麦パン二十個と新しい穀物を袋に入れて神の人のもとに持って来た。神の人は、「人々に与えて食べさせなさい」と命じたが、 43召し使いは、「どうしてこれを百人の人々に分け与えることができましょう」と答えた。エリシャは再び命じた。「人々に与えて食べさせなさい。主は言われる。『彼らは食べきれずに残す。』」 44召し使いがそれを配ったところ、主の言葉のとおり彼らは食べきれずに残した。
1アラムの王の軍司令官ナアマンは、主君に重んじられ、気に入られていた。主がかつて彼を用いてアラムに勝利を与えられたからである。この人は勇士であったが、重い皮膚病を患っていた。 2アラム人がかつて部隊を編成して出動したとき、彼らはイスラエルの地から一人の少女を捕虜として連れて来て、ナアマンの妻の召し使いにしていた。 3少女は女主人に言った。「御主人様がサマリアの預言者のところにおいでになれば、その重い皮膚病をいやしてもらえるでしょうに。」 4ナアマンが主君のもとに行き、「イスラエルの地から来た娘がこのようなことを言っています」と伝えると、 5アラムの王は言った。「行くがよい。わたしもイスラエルの王に手紙を送ろう。」こうしてナアマンは銀十キカル、金六千シェケル、着替えの服十着を携えて出かけた。 6彼はイスラエルの王に手紙を持って行った。そこには、こうしたためられていた。
「今、この手紙をお届けするとともに、家臣ナアマンを送り、あなたに託します。彼の重い皮膚病をいやしてくださいますように。」 7イスラエルの王はこの手紙を読むと、衣を裂いて言った。「わたしが人を殺したり生かしたりする神だとでも言うのか。この人は皮膚病の男を送りつけていやせと言う。よく考えてみよ。彼はわたしに言いがかりをつけようとしているのだ。」 8神の人エリシャはイスラエルの王が衣を裂いたことを聞き、王のもとに人を遣わして言った。「なぜあなたは衣を裂いたりしたのですか。その男をわたしのところによこしてください。彼はイスラエルに預言者がいることを知るでしょう。」
9ナアマンは数頭の馬と共に戦車に乗ってエリシャの家に来て、その入り口に立った。 10エリシャは使いの者をやってこう言わせた。「ヨルダン川に行って七度身を洗いなさい。そうすれば、あなたの体は元に戻り、清くなります。」 11ナアマンは怒ってそこを去り、こう言った。「彼が自ら出て来て、わたしの前に立ち、彼の神、主の名を呼び、患部の上で手を動かし、皮膚病をいやしてくれるものと思っていた。 12イスラエルのどの流れの水よりもダマスコの川アバナやパルパルの方が良いではないか。これらの川で洗って清くなれないというのか。」彼は身を翻して、憤慨しながら去って行った。 13しかし、彼の家来たちが近づいて来ていさめた。「わが父よ、あの預言者が大変なことをあなたに命じたとしても、あなたはそのとおりなさったにちがいありません。あの預言者は、『身を洗え、そうすれば清くなる』と言っただけではありませんか。」 14ナアマンは神の人の言葉どおりに下って行って、ヨルダンに七度身を浸した。彼の体は元に戻り、小さい子供の体のようになり、清くなった。
15彼は随員全員を連れて神の人のところに引き返し、その前に来て立った。「イスラエルのほか、この世界のどこにも神はおられないことが分かりました。今この僕からの贈り物をお受け取りください。」 16神の人は、「わたしの仕えている主は生きておられる。わたしは受け取らない」と辞退した。ナアマンは彼に強いて受け取らせようとしたが、彼は断った。 17ナアマンは言った。「それなら、らば二頭に負わせることができるほどの土をこの僕にください。僕は今後、主以外の他の神々に焼き尽くす献げ物やその他のいけにえをささげることはしません。 18ただし、この事については主が僕を赦してくださいますように。わたしの主君がリモンの神殿に行ってひれ伏すとき、わたしは介添えをさせられます。そのとき、わたしもリモンの神殿でひれ伏さねばなりません。わたしがリモンの神殿でひれ伏すとき、主がその事についてこの僕を赦してくださいますように。」 19エリシャは彼に、「安心して行きなさい」と言った。
ナアマンがエリシャと別れて、少し行ったとき、 20神の人エリシャの従者ゲハジは、「わたしの主人は、あのアラム人ナアマンが持って来たものを何も受け取らずに帰してしまった。主は生きておられる。彼を追いかけて何かもらってこよう」と言って、 21ナアマンの後を追った。ナアマンは彼が後を追って来るのを見て、戦車から飛び降り、彼を迎え、「どうかなさいましたか」と尋ねた。 22彼は答えた。「何でもありません。わたしの主人がわたしを遣わしてこう言いました。『今し方預言者の仲間の若い者が二人エフライムの山地から着いた。彼らに銀一キカルと着替えの服二着を与えてほしい。』」 23ナアマンは、「どうぞ、二キカル取ってください」と言ってしきりに勧め、二つの袋に銀二キカルを詰め、着替えの服二着を添えて、自分の従者二人に渡した。彼らはそれを持ち、ゲハジの先に立って進んだ。 24オフェルに着いたとき、ゲハジは彼らからそれらを受け取って家にしまい込み、彼らを帰した。彼らは去って行った。 25彼が主人のところに来て立つと、エリシャは、「ゲハジ、お前はどこに行っていたのか」と言った。ゲハジは、「僕はどこにも行っていません」と答えたが、 26エリシャは言った。「あの人が戦車から降りて引き返し、お前を迎えたとき、わたしの心がそこに行っていなかったとでも言うのか。今は銀を受け、衣服、オリーブの木やぶどう畑、羊や牛、男女の奴隷を受け取る時であろうか。 27ナアマンの重い皮膚病がお前とお前の子孫にいつまでもまといつくことになるのに。」ゲハジは重い皮膚病で雪のようになり、エリシャの前から立ち去った。
1預言者の仲間たちがエリシャに言った。「御覧のように、わたしたちがあなたと共に住んでいるこの場所は、わたしたちには狭すぎます。 2ヨルダンに行き、梁にする材木を各自一本ずつ取って来て、わたしたちの住む場所を造りましょう。」エリシャは、「行きなさい」と言った。 3一人が、「どうぞあなたもわたしたちと一緒に来てください」と頼んだので、「わたしも行こう」と言って、 4エリシャも彼らと共に行った。彼らはヨルダンに来て、木を切り出した。 5そのうちの一人が梁にする木を切り倒しているとき、鉄の斧が水の中に落ちてしまった。彼は、「ああ、御主人よ、あれは借り物なのです」と叫んだ。 6神の人は、「どこに落ちたのか」と尋ね、その場所が示されると、枝を切り取ってそこに投げた。すると鉄の斧が浮き上がった。 7「拾い上げよ」と言われて、その人は手を伸ばし、それを取った。
アラム軍の敗退
8アラムの王がイスラエルと戦っていたときのことである。王は家臣を集めて協議し、「これこれのところに陣を張ろう」と言った。 9しかし、神の人はイスラエルの王のもとに人を遣わし、「その場所を通らないように注意せよ。アラム軍がそこに下って来ている」と言わせた。 10イスラエルの王は神の人が知らせたところに人を送った。エリシャが警告したので、王はそこを警戒するようになった。これは一度や二度のことではなかった。 11アラムの王の心はこの事によって荒れ狂い、家臣たちを呼んで、「我々の中のだれがイスラエルの王と通じているのか、わたしに告げなさい」と言った。 12家臣の一人が答えた。「だれも通じていません。わが主君、王よ、イスラエルには預言者エリシャがいて、あなたが寝室で話す言葉までイスラエルの王に知らせているのです。」 13アラムの王は言った。「行って、彼がどこにいるのか、見て来るのだ。わたしは彼を捕らえに人を送る。」こうして王に、「彼はドタンにいる」という知らせがもたらされた。 14王は、軍馬、戦車、それに大軍をそこに差し向けた。彼らは夜中に到着し、その町を包囲した。
15神の人の召し使いが朝早く起きて外に出てみると、軍馬や戦車を持った軍隊が町を包囲していた。従者は言った。「ああ、御主人よ、どうすればいいのですか。」 16するとエリシャは、「恐れてはならない。わたしたちと共にいる者の方が、彼らと共にいる者より多い」と言って、 17主に祈り、「主よ、彼の目を開いて見えるようにしてください」と願った。主が従者の目を開かれたので、彼は火の馬と戦車がエリシャを囲んで山に満ちているのを見た。
18アラム軍が攻め下って来たので、エリシャが主に祈って、「この異邦の民を打って目をくらましてください」と言うと、主はエリシャの言葉どおり彼らを打って目をくらまされた。 19エリシャは彼らに、「これはあなたたちの行く道ではない。これはあなたたちの求める町ではない。わたしについて来なさい。あなたたちの捜している人のところへわたしが連れて行ってあげよう」と言って、彼らをサマリアに連れて行った。 20彼らがサマリアに着くと、エリシャは、「主よ、彼らの目を開いて見えるようにしてください」と言った。主が彼らの目を開かれ、彼らは見えるようになったが、見たのは自分たちがサマリアの真ん中にいるということであった。 21イスラエルの王は彼らを見て、エリシャに、「わたしの父よ、わたしが打ち殺しましょうか、打ち殺しましょうか」と言ったが、 22エリシャは答えた。「打ち殺してはならない。あなたは捕虜とした者を剣と弓で打ち殺すのか。彼らにパンと水を与えて食事をさせ、彼らの主君のもとに行かせなさい。」 23そこで王は彼らのために大宴会を催した。彼らは食べて飲んだ後、自分たちの主君のもとに帰って行った。アラムの部隊は二度とイスラエルの地に来なかった。
24その後、アラムの王ベン・ハダドは全軍を召集し、攻め上って来て、サマリアを包囲した。 25サマリアは大飢饉に見舞われていたが、それに包囲が加わって、ろばの頭一つが銀八十シェケル、鳩の糞四分の一カブが五シェケルで売られるようになった。 26イスラエルの王が城壁の上を通って行くと、一人の女が彼に向かって叫んだ。「わが主君、王よ、救ってください。」 27王は言った。「主が救ってくださらなければ、どのようにしてわたしがあなたを救えよう。麦打ち場にあるものによってか、それとも酒ぶねにあるものによってか。」 28王は更に、「何があったのか」と尋ねると、彼女は言った。「この女がわたしに、『あなたの子供をください。今日その子を食べ、明日はわたしの子供を食べましょう』と言うので、 29わたしたちはわたしの子供を煮て食べました。しかしその翌日、わたしがこの女に、『あなたの子供をください。その子を食べましょう』と言いますと、この女は自分の子供を隠してしまったのです。」 30王はこの女の話を聞いて、衣を裂いた。王は城壁の上を通っていたので、それが民に見えた。王の肌着は粗布であった。 31王は言った。「シャファトの子エリシャの首が今日も彼についているなら、神が幾重にもわたしを罰してくださるように。」
32エリシャは自分の家に座り、長老たちも一緒に座っていた。王は彼に向けて人を遣わしたが、この使者が着く前に、彼は長老たちに言った。「分かりますか。あの人殺しはわたしの首をはねるために人を遣わしました。見よ、使者が来たら、戸を閉じ、戸のところでその人を押し返してください。その後に、彼の主君の足音が聞こえるではありませんか。」 33エリシャがまだ彼らと話しているうちに、使者が彼のところに下って来て言った。「この不幸は主によって引き起こされた。もはや主に何を期待できるのか。」