ダニエル書 5:1-7:28
壁に字を書く指の幻
1ベルシャツァル王は千人の貴族を招いて大宴会を開き、みんなで酒を飲んでいた。 2宴も進んだころ、ベルシャツァルは、その父ネブカドネツァルがエルサレムの神殿から奪って来た金銀の祭具を持って来るように命じた。王や貴族、後宮の女たちがそれで酒を飲もうというのである。 3そこで、エルサレムの神殿から奪って来た金銀の祭具が運び込まれ、王や貴族、後宮の女たちがそれで酒を飲み始めた。 4こうして酒を飲みながら、彼らは金や銀、青銅、鉄、木や石などで造った神々をほめたたえた。
5その時、人の手の指が現れて、ともし火に照らされている王宮の白い壁に文字を書き始めた。王は書き進むその手先を見た。 6王は恐怖にかられて顔色が変わり、腰が抜け、膝が震えた。 7王は大声をあげ、祈禱師、賢者、星占い師などを連れて来させ、これらバビロンの知者にこう言った。「この字を読み、解釈をしてくれる者には、紫の衣を着せ、金の鎖を首にかけて、王国を治める者のうちの第三の位を与えよう。」 8宮廷の知者たちは皆、集まって来たが、だれもその字を読むことができず、解釈もできなかった。 9ベルシャツァル王はいよいよ恐怖にかられて顔色が変わり、貴族も皆途方に暮れた。
10王や貴族が話しているのを聞いた王妃は、宴会場に来てこう言った。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。そんなに心配したり顔色を変えたりなさらないでくださいませ。 11お国には、聖なる神の霊を宿している人が一人おります。父王様の代に、その人はすばらしい才能、神々のような知恵を示したものでございます。お父上のネブカドネツァル王様は、この人を占い師、祈禱師、賢者、星占い師などの長にしておられました。 12この人には特別な霊の力があって、知識と才能に富み、夢の解釈、謎解き、難問の説明などがよくできるのでございます。ダニエルという者で、父王様はベルテシャツァルと呼んでいらっしゃいました。このダニエルをお召しになれば、その字の解釈をしてくれることでございましょう。」
13そこで、ダニエルが王の前に召し出された。王は彼に言った。「父王がユダから捕らえ帰ったユダヤ人の捕囚の一人、ダニエルというのはお前か。 14聞くところによると、お前は神々の霊を宿していて、すばらしい才能と特別な知恵を持っているそうだ。 15賢者や祈禱師を連れて来させてこの文字を読ませ、解釈させようとしたのだが、彼らにはそれができなかった。 16お前はいろいろと解釈をしたり難問を解いたりする力を持つと聞いた。もしこの文字を読み、その意味を説明してくれたなら、お前に紫の衣を着せ、金の鎖を首にかけて、王国を治める者のうち第三の位を与えよう。」
17ダニエルは王に答えた。「贈り物など不要でございます。報酬はだれか他の者にお与えください。しかし、王様のためにその文字を読み、解釈をいたしましょう。 18王様、いと高き神は、あなたの父ネブカドネツァル王に王国と権勢と威光をお与えになりました。 19その権勢を見て、諸国、諸族、諸言語の人々はすべて、恐れおののいたのです。父王様は思うままに殺し、思うままに生かし、思うままに栄誉を与え、思うままに没落させました。 20しかし、父王様は傲慢になり、頑に尊大にふるまったので、王位を追われ、栄光は奪われました。 21父王様は人間の社会から追放され、心は野の獣のようになり、野生のろばと共に住み、牛のように草を食らい、天から降る露にその身をぬらし、ついに悟ったのは、いと高き神こそが人間の王国を支配し、その御旨のままに王を立てられるのだということでした。 22さて、ベルシャツァル王よ、あなたはその王子で、これらのことをよくご存じでありながら、なお、へりくだろうとはなさらなかった。 23天の主に逆らって、その神殿の祭具を持ち出させ、あなた御自身も、貴族も、後宮の女たちも皆、それで飲みながら、金や銀、青銅、鉄、木や石で造った神々、見ることも聞くこともできず、何も知らないその神々を、ほめたたえておられます。だが、あなたの命と行動の一切を手中に握っておられる神を畏れ敬おうとはなさらない。 24そのために神は、あの手を遣わして文字を書かせたのです。 25さて、書かれた文字はこうです。メネ、メネ、テケル、そして、パルシン。 26意味はこうです。メネは数えるということで、すなわち、神はあなたの治世を数えて、それを終わらせられたのです。 27テケルは量を計ることで、すなわち、あなたは秤にかけられ、不足と見られました。 28パルシンは分けるということで、すなわち、あなたの王国は二分されて、メディアとペルシアに与えられるのです。」
29これを聞いたベルシャツァルは、ダニエルに紫の衣を着せ、金の鎖をその首にかけるように命じ、王国を治める者のうち第三の位を彼に与えるという布告を出した。 30その同じ夜、カルデア人の王ベルシャツァルは殺された。
獅子の洞窟に投げ込まれたダニエル
1さて、王国を継いだのは、メディア人ダレイオスであった。彼は既に六十二歳であった。 2ダレイオスは、王国に百二十人の総督を置いて全国を治めさせることにし、 3また、王に損失がないようにするため、これらの総督から報告を受ける大臣を三人、その上に置いた。ダニエルはそのひとりであった。 4ダニエルには優れた霊が宿っていたので、他の大臣や総督のすべてに傑出していた。王は彼に王国全体を治めさせようとした。 5大臣や総督は、政務に関してダニエルを陥れようと口実を探した。しかし、ダニエルは政務に忠実で、何の汚点も怠慢もなく、彼らは訴え出る口実を見つけることができなかった。 6それで彼らは、「ダニエルを陥れるには、その信じている神の法に関してなんらかの言いがかりをつけるほかはあるまい」と話し合い、 7王のもとに集まってこう言った。「ダレイオス王様がとこしえまでも生き永らえられますように。 8王国の大臣、執政官、総督、地方長官、側近ら一同相談いたしまして、王様に次のような、勅令による禁止事項をお定めいただこうということになりました。すなわち、向こう三十日間、王様を差し置いて他の人間や神に願い事をする者は、だれであれ獅子の洞窟に投げ込まれる、と。 9王様、どうぞこの禁令を出し、その書面に御署名ください。そうすれば、これはメディアとペルシアの法律として変更不可能なものとなり、廃止することはできなくなります。」 10ダレイオス王は、その書面に署名して禁令を発布した。 11ダニエルは王が禁令に署名したことを知っていたが、家に帰るといつものとおり二階の部屋に上がり、エルサレムに向かって開かれた窓際にひざまずき、日に三度の祈りと賛美を自分の神にささげた。 12役人たちはやって来て、ダニエルがその神に祈り求めているのを見届け、 13王の前に進み出、禁令を引き合いに出してこう言った。「王様、向こう三十日間、王様を差し置いて他の人間や神に願い事をする者があれば、獅子の洞窟に投げ込まれるという勅令に署名をなさったのではございませんか。」王は答えた。「そのとおりだ。メディアとペルシアの法律は廃棄されることはない。」 14彼らは王に言った。「王様、ユダヤからの捕囚の一人ダニエルは、あなたさまをも、署名なさったその禁令をも無視して、日に三度祈りをささげています。」 15王はこれを聞いてたいそう悩み、なんとかダニエルを助ける方法はないものかと心を砕き、救おうとして日の暮れるまで努力した。 16役人たちは王のもとに来て言った。「王様、ご存じのとおり、メディアとペルシアの法律によれば、王による勅令や禁令は一切変更してはならないことになっております。」 17それで王は命令を下し、ダニエルは獅子の洞窟に投げ込まれることになって引き出された。王は彼に言った。「お前がいつも拝んでいる神がお前を救ってくださるように。」 18一つの石が洞窟の入り口に置かれ、王は自分の印と貴族たちの印で封をし、ダニエルに対する処置に変更がないようにした。
19王は宮殿に帰ったが、その夜は食を断ち、側女も近寄らせず、眠れずに過ごし、 20夜が明けるやいなや、急いで獅子の洞窟へ行った。 21洞窟に近づくと、王は不安に満ちた声をあげて、ダニエルに呼びかけた。「ダニエル、ダニエル、生ける神の僕よ、お前がいつも拝んでいる神は、獅子からお前を救い出す力があったか。」 22ダニエルは王に答えた。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。 23神様が天使を送って獅子の口を閉ざしてくださいましたので、わたしはなんの危害も受けませんでした。神様に対するわたしの無実が認められたのです。そして王様、あなたさまに対しても、背いたことはございません。」 24王はたいそう喜んで、ダニエルを洞窟から引き出すように命じた。ダニエルは引き出されたが、その身に何の害も受けていなかった。神を信頼していたからである。 25王は命令を下して、ダニエルを陥れようとした者たちを引き出させ、妻子もろとも獅子の洞窟に投げ込ませた。穴の底にも達しないうちに、獅子は彼らに飛びかかり、骨までもかみ砕いた。
26ダレイオス王は、全地に住む諸国、諸族、諸言語の人々に、次のように書き送った。「いっそうの繁栄を願って挨拶を送る。 27わたしは以下のとおりに定める。この王国全域において、すべての民はダニエルの神を恐れかしこまなければならない。
この神は生ける神、世々にいまし
その主権は滅びることなく、その支配は永遠。
28この神は救い主、助け主。
天にも地にも、不思議な御業を行い
ダニエルを獅子の力から救われた。」
29こうしてダニエルは、ダレイオスとペルシアのキュロスの治世を通して活躍した。
四頭の獣の幻
1バビロンの王ベルシャツァルの治世元年のことである。ダニエルは、眠っているとき頭に幻が浮かび、一つの夢を見た。彼はその夢を記録することにし、次のように書き起こした。
2ある夜、わたしは幻を見た。見よ、天の四方から風が起こって、大海を波立たせた。 3すると、その海から四頭の大きな獣が現れた。それぞれ形が異なり、 4第一のものは獅子のようであったが、鷲の翼が生えていた。見ていると、翼は引き抜かれ、地面から起き上がらされて人間のようにその足で立ち、人間の心が与えられた。 5第二の獣は熊のようで、横ざまに寝て、三本の肋骨を口にくわえていた。これに向かって、「立て、多くの肉を食らえ」という声がした。 6次に見えたのはまた別の獣で、豹のようであった。背には鳥の翼が四つあり、頭も四つあって、権力がこの獣に与えられた。 7この夜の幻で更に続けて見たものは、第四の獣で、ものすごく、恐ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の角があった。 8その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。 9なお見ていると、
王座が据えられ
「日の老いたる者」がそこに座した。
その衣は雪のように白く
その白髪は清らかな羊の毛のようであった。
その王座は燃える炎
その車輪は燃える火
10その前から火の川が流れ出ていた。
幾千人が御前に仕え
幾万人が御前に立った。
裁き主は席に着き
巻物が繰り広げられた。
11さて、その間にもこの角は尊大なことを語り続けていたが、ついにその獣は殺され、死体は破壊されて燃え盛る火に投げ込まれた。 12他の獣は権力を奪われたが、それぞれの定めの時まで生かしておかれた。
13夜の幻をなお見ていると、
見よ、「人の子」のような者が天の雲に乗り
「日の老いたる者」の前に来て、そのもとに進み
14権威、威光、王権を受けた。
諸国、諸族、諸言語の民は皆、彼に仕え
彼の支配はとこしえに続き
その統治は滅びることがない。
15わたしダニエルは大いに憂い、頭に浮かんだこの幻に悩まされた。 16そこに立っている人の一人に近づいてこれらのことの意味を尋ねると、彼はそれを説明し、解釈してくれた。 17「これら四頭の大きな獣は、地上に起ころうとする四人の王である。 18しかし、いと高き者の聖者らが王権を受け、王国をとこしえに治めるであろう。」 19更にわたしは、第四の獣について知りたいと思った。これは他の獣と異なって、非常に恐ろしく、鉄の歯と青銅のつめをもち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじったものである。 20その頭には十本の角があり、更に一本の角が生え出たので、十本の角のうち三本が抜け落ちた。その角には目があり、また、口もあって尊大なことを語った。これは、他の角よりも大きく見えた。 21見ていると、この角は聖者らと闘って勝ったが、 22やがて、「日の老いたる者」が進み出て裁きを行い、いと高き者の聖者らが勝ち、時が来て王権を受けたのである。
23さて、その人はこう言った。
「第四の獣は地上に興る第四の国
これはすべての国に異なり
全地を食らい尽くし、踏みにじり、打ち砕く。
24十の角はこの国に立つ十人の王
そのあとにもう一人の王が立つ。
彼は十人の王と異なり、三人の王を倒す。
25彼はいと高き方に敵対して語り
いと高き方の聖者らを悩ます。
彼は時と法を変えようとたくらむ。
聖者らは彼の手に渡され
一時期、二時期、半時期がたつ。
26やがて裁きの座が開かれ
彼はその権威を奪われ
滅ぼされ、絶やされて終わる。
27天下の全王国の王権、権威、支配の力は
いと高き方の聖なる民に与えられ
その国はとこしえに続き
支配者はすべて、彼らに仕え、彼らに従う。」
28ここでその言葉は終わった。わたしダニエルは大層恐れ悩み、顔色も変わるほどであった。しかし、わたしはその言葉を心に留めた。